「今日は桜を皆で見に行ったんだ」
微笑みながら言葉を吐くと目の前の人物は少しだけ反応を示した。それはピクリともいえない微弱なものだったけれども自分が分かっているのだからそんな反応でも十分だ。とルークは思う。
「すごく、綺麗だったよ…。薄いような、えっと、淡いピンク色だったんだけれど、それがたくさん、ぶわぁって!風が吹いたら一気に花びらが飛んだんだ。ジェイドも今度、一緒に行こう。すごく、綺麗なんだから…」
思い出すようにルークは話す。感動が少しでも伝わるように。目の前の人物が良く分かるように。語学はそこまで得意じゃないし、どちらかというと要点をまとめて話すのは苦手だけれども、伝えたいことを言葉にして話す。
「ねぇ…だからさ」
どうしてなんでどうして。
「なんか…言ってよ……。ジェイド…」
どうしてどうしてどうしてどうして!彼がこんなことに!世の中は、あまりにも不公平で理不尽で、汚い。
「ジェイド、ジェイド、ジェイド…」
頬を撫ぜると暖かく、瞳を見ると濁っていて。綺麗な唇は言葉を紡がない。
神に指を絡ませて、左手は彼の手を握る。
この手は確かに暖かいのに、この眼は確かに開いているのに、彼は確かに呼吸をしているのに!
「ジェイド…ねぇ」
本当これではどうしようもない。人形が欲しいわけじゃない。笑ってくれる彼が欲しい。
「これじゃあ俺、一人と変わらないよ…」
苦しい、怖い。
「ジェイド、ジェイド、ジェイドぉ……」
彼にすがり付いて泣いても何もかわらないのに。それを知っていてもなおすがり付く。
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