「もうすぐだな…」
言わなくても彼が言っている意味が分かってしまうのが悲しかった。
「ええ…そうですね」
そして気の利く言葉のひとつも言えない自分に苛苛した。
「もしもだけど…もしも、俺に未来があったなら、俺、ずっと一緒にいたい。グランコクマは綺麗なところだし、陛下は…苦手だけど好きだ。ガイもいるし、ペールもいるし。それにレプリカのこと、自分のこと、俺…もっと知りたい」
まるで神に祈るかのように(馬鹿馬鹿しい)、言葉を紡ぐ姿を見ても、ありえない未来に焦がれる姿を見ても、私にはなにも、どうしてやることも出来ないのがあまりにも悔しく、歯がゆい。
強く握られた手は、彼がいま生きていることの何よりの証明で、この暖かさを失う日が来ることを思うとそれはとても…―
「ジェイド」
死が、彼に近づくたびに理解する感情。
「ありがとう。俺、後悔なんてしないよ。…してないよ。これが俺の生まれてきた意味で、俺がしなくちゃいけないことなんだから、さ」
―違う。子供は押し付けられたものを拒否して逃げても良かったはずだった。しかし逃げ道を塞いでいったのは他でもない、逃げ道を作った私達だ。
「大丈夫。きっと上手くいくよ。俺、ちゃんとできるよ」
何もかも悟ったような笑顔で、残酷に無自覚に子供は私に告げる。
「だから、そしたらジェイドは…」
きっと告げられる言葉は私にとっては呪縛。
「幸せになってよ…」
朱毛の子供のいない未来が、私にとって幸せじゃないのだけは確かであるのに、その純粋であるがゆえに残酷な願いに、私は微笑むことしかできないのだ。
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