「おはようございます先輩」
「…ああ」
「珍しいですね、こんな時間に起きてくるなんて」
「そうだな…」
本当珍しい、と頬を綻ばせて笑う藤原を見て俺も自然と笑った。
穏やかな朝。藤原はフイ、と視線をずらし朝の通販番組を見つめている。またわけの分からないものを物欲しそうに見ている藤原は年相応に、いや、下手したらそれ以下に見えて微笑ましいことこの上ない。そんな平穏すぎる朝なのに頭のどこかでちりちりと音がする。妙な違和感…。だが俺はそれを振り払うように頭を二度振る。ちょっと遅い気がするがランニングに行こうと思ったからだ。そうだ、ついでにコンビニにも行こう。
リビングにいる藤原に声を掛けると「いってらっしゃい」と柔らかい声が返ってきた。そのまま扉へと手をかける。
「せんぱい」
「どうした?なにか買ってきてほしいものでもあるのか?」
「前へ、進んでください」
「何を…」
「振り返らないで、前へ進んでください。僕が築いた『きせき』を無駄にしないためにも」
「藤原…?」
いつの間にこんな背後にいたのか。リビングでソファに座りテレビを観ていたはずの藤原は俺の背に当て言葉を続ける。
「僕は、後悔していません。だから貴方も悔やまないで」
ああ、そうか。彼は…これは……。
「いってらっしゃい」
「…ああ、いってきます」
背を押され外へと足を踏み出す。
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