僕は何かを残せただろうか
僕は誰かを愛せただろうか
僕の軌跡を遺せただろうか
僕は「ぼく」になれたと思うかい?
覚悟を決めろ
決意を固めろ
意思を強固に
決して迷ってはならないから
ぼくがぼくであるためのせんたくをするよ
Episorde00:フジワラハルキ
繰り返し繰り返し夢をみる。果たしてそれは本当に夢なのか、それとも胡蝶の夢、というやつなのだろうか。僕は繰り返し夢をみる。僕は繰り返し生に憧れ求め断ち切る。…そういえば僕が世界の楔となってどれだけ経ったのだろうか。確認する術などないけれども。
僕は今日も夢をみる。楽しくて平凡で当たり前で焦がれてやまない日々を夢見る。後悔なんてものはないけれども、僕は僕がわからなくなる。それがとてもときに怖くて仕方がないのだ。だから夢へと逃避する。僕が僕であったときの、僕が僕でしかなかったときの、僕が僕のものでしかなかったときの夢を見る。繰り返し繰り返し繰り返し。
『お前はそれで満足か?なぁ、愚か者共の夢の残骸、世界の楔、俺の兄弟』
「満足にみえるかい?分かっているくせに嫌な奴だなぁ相変わらず。それで、今日は何かな僕の兄弟」
『つれないなぁ、兄弟。なぁ、お前は楔でありたいか?そろそろ自由にはなりたくないか?』
「それは、ね。自由になれれば万々歳だ。楔なんていうけれど、結局僕は僕でしかないのだから。自由に憧れないわけがないだろ?」
そう、憧れないわけが無い。憧れずにはいられない。僕は僕でありたかった。楔になんて本当はなりたくなかった。けれど僕が僕であるために、大切な僕という世界の人たちだけのために。彼らだけが無事であればいい。そう思っての行動が結果的に世界そのものの危機を遠ざけることになったのだから、それを思うとなんともいえない気分になる。
『自由にしてやる、っていったらどうする?』
ヒヤリとした。なんだって?嘘だろう?なんて笑えない冗談だ!
「あまりにも笑えない冗談には僕も怒っちゃうけど?」
『まぁそう笑ってない笑顔で俺をおどすなよ。繊細なんだ』
嘘だ。こいつが繊細なら世界中の犯罪者すべてが繊細でどうしようもないほどか弱い生き物になってしまうじゃないか。
『冗談なんかじゃないさ。楔に代わるものが、まぁ、代用品がコッチに来たからな。お前をここから解いてやっても別にかまわないさ。楔はひとつあれば十分』
「……何が望みだい?」
『はは、よくわかってるな兄弟!どっかの馬鹿野郎共よりもよっぽど分かっていらっしゃる。そう、等価交換だ、といいたいところだけれどなぁ…おまえ自身が世界の代価として差し出されたモノだからな。どうしたものかねぇ…そうだな、対価にお前の世界をもらおうか』
「どういうこと、かな?」
『そのままの意味だ。俺はお前から“お前の世界”をもらっていく。楔から解き放ってやるがお前はここをはじき出された後あの場所へは戻れない。もう一度、お前として生きられるがそれはあの世界じゃない。そういうことだ。なぁ、世界の楔』
「……いいよ、それでも。もともと戻れないさ僕は。もう何年経ったのか正確にはわからないけど大体はわかるからね。意味が無い。世界に執着があったわけじゃない。あの“場所”だからこそ僕の執着もあった。まぁそれもいまとなっては、意味の無いことさ」
『ハハ!本当お前はエゴイストの塊だよ。恐れ入る』
「思ってもいないことを口に出さなくてもいいんじゃないかな。性格の悪い」
『俺はお前こそ性格が破綻しているように思えるがな。修復不可能なくらい捻くれてる』
まぁいい、と吐き出すようにつぶやいた“ソレ”は僕へと手を差し出した。
「どんな、世界?」
『さてな、俺は知らないね。ココよりマシな世界であることだけは確かだろうよ』
「それもそうだね」
『そういうことだ』
“ソレ”に触れると白い世界が反転した。
『ああ、忘れるとこだった。餞別だ。お前の“代用品”を多少くれてやる。せいぜいがんばって生きるんだな。今度はお前の終焉に逢おうじゃないか!またな、兄弟』
この記事にトラックバックする